「仕事を完全に引退したら 世界旅行に二人で行こう!って言ってくれてたのに」
認知症の73歳の夫が、徘徊をしている所を近所の方が声を掛けてくれて見つかり、そのお方の家まで向かえに行った帰りの事でした。
65歳まで働いてくれた夫が、仕事を辞めたら、二人でゆっくりと自分達の時間を使えると思っていたのに出掛けるどころか、会話もままならず、介護に忙しい毎日こんな生活を想像もしていなかった。
精神的にも、肉体的にも、つらい日々が続きついに、限界を迎え夫には施設に入ってもらう事を決断した。
夫に施設に入ってもらう為には夫名義の定期預金を解約してもらう必要があります。しかし、定期預金を解約する為には、夫は認知症なので、成年後見の手続きが必要となり、そこで成年後見制度を申し立てたが、財産額の為か、親族ではなく、弁護士が後見人になる事になった。
成年後見の手続きを開始し、定期預金は解約出来、夫は施設に入所した。
しかし、問題はこれで終わらなかった。
多くの財産は夫名義だったので、妻が買いたいものがあっても、夫の名義からは後見人に話しても、お金を使わせてもらう事が簡単に出来なくなってしまった。
妻は、夫との楽しい生活が出来ないどころか、生活自体に、とても不自由をする事になったのです。
もし、夫が元気な時に、任意後見契約や民事信託をしたり、夫婦の将来設計次第では、夫婦間で贈与を行うなどをしていれば、妻の生活は、大きく変わりました。
認知症対策と将来設計の関係性の重要性について、お話ししましたがご理解いただけたでしょうか?
家族信託契約について
このような事態を避けるために、家族信託契約が重要な役割を果たします。
家族信託契約では、財産の管理や使用に関する権限を家族や信託会社に委任することができます。家族の財産管理や資産保護のために作成される契約です。一般的に、財産を信託に移すことによって、財産の管理や配分、保護を特定の目的に基づいて行うことができます。この契約を通じて、認知症や高齢者の方々が財産を適切に管理し、生活費や医療費、介護費などを支払うための仕組みが整います。
家族信託契約契約を締結していることで、認知症と診断された場合「成年後見制度」と比べて柔軟な対策をとることができるので、事例を含めて概要を説明いたします。
家族信託の関係当事者
委託者(親): 信託財産を提供(預ける・託す)する人です。
受託者(子): 信託財産を管理・運用する責任を持つ人です。信託管理者は、法的な義務を遵守し、受益者の利益を保護する役割を果たします。
受益者(親): 信託財産から生じた利益を受ける権利を持つ人です。
家族信託を簡単に言うと大切な財産を信頼できる人(家族)に託し、管理・運用をしてもらう制度です。
信託財産
信託契約によって指定された財産や資産の総称です。これには、現金、不動産、株式、債券、事業、知的財産などが含まれる場合があります。
成年後見制度
認知症対策として思い起こされるのが、成年後見制度(法定後見・任意後見)ですが、家族信託契約との大きな違いは、財産の運用・処分は本人のための支出のみであり、投資や運用、贈与等はできません。また、認知症と判断された場合家庭裁判所の審判により法廷後見人が任命され財産管理を行いますが、その際法律専門家が行う場合はある一定の報酬が発生します。
認知症対策として「家族信託契約」を締結するメリットとは?
財産管理の継続性:
認知症の進行により、本人が財産管理や金銭の取り扱いに十分な能力を持てなくなる可能性があります。家族信託契約を通じて、認知症の発症前に事前に指示や配分を行っておくことで、財産管理の継続性を確保できます。信託管理者が適切な財産管理を行い、受益者のニーズや目的に基づいて資産を運用・配分することができます。
財産保護:
認知症の進行に伴い、本人が財産に関して脆弱になる可能性があります。詐欺や悪意のある取引からの保護や、本人の意思に反した財産の無駄遣いを防ぐために、信託契約を活用することが有益です。信託財産は信託契約に基づいて管理されるため、本人の意思に反する不適切な取引を制限することができます。
医療・介護費用の確保:
認知症の進行に伴い、医療や介護にかかる費用が増えることが予想されます。家族信託契約を通じて、信託財産を活用して医療や介護費用を確保できます。信託契約によって資産の適切な管理と使途の制御が行われ、受益者の医療・介護ニーズをサポートするための資金を提供することが可能です。
相続争いの防止:
認知症の進行により、相続に関する問題や紛争が発生するリスクが増えます。家族信託契約を活用することで、信託契約に従って財産の配分や管理が行われるため、相続時の紛争を防ぐことができます。信託契約に明確な指示を盛り込むことで、本人の意図や家族の将来のニーズに基づいた公平な財産分配を実現できます。これにより、相続争いや家族間の緊張を軽減し、円満な相続手続きを促進することができます。
事例:
認知機能が低下気味であり、介護のために高齢者施設に入所することになった場合に、自宅のほか収益不動産を所有したとして、入所した後の管理について収益不動産の収入は、施設での生活費に充て、施設に入所したその後認知症などで意思能力を喪失ことのことを考えて、家族信託契約を締結し、自宅と収益不動産の管理等を受託者(子)に託すことで、不動産の修繕、管理、契約の更新などを委託者(親)が行い信託した収益不動産の収入についても、受益者(親)が信託口座で管理するこことで不動産の管理や親の生活費の支弁に影響は出ないようにするなど、成年後見制度と比較して柔軟な形で将来を見据えた契約でご家族の安心と安全を確保する仕組みが作れることがこの制度の大きなメリットです。
【 まとめ 】
認知症対策と将来設計は密接に関連しています。家族信託契約を活用することで、認知症や高齢者の方々が安心して生活できる環境を整えることができます。将来の不測の事態に備え、家族間でのコミュニケーションや財産管理の計画を立てることが重要ですが家族の財産管理と資産保護のための強力な手段となる制度ですが、個別の状況によって異なる要件や制約が存在しますが、家族の絆を守りながら、認知症や高齢者の方々の福祉を支援するための有効な手段と言えます。